無題

人前で泣くのを堪えることで、あぁ大人になったなという嫌な実感を得る。息を止めて耐えていると、慟哭した時と同じくらいの息苦しさに襲われて、思わず失笑してしまう。睡眠薬が無いと眠れないという科白が真実になってしまってから、道化が上手くなった。妙に媚び諂う笑顔が張り付く。新聞を解約して自分と世間の乖離を感じたのも束の間、毎朝満員電車に乗り込むわたしは社会人である。耳に入るニュース曰く、アフガニスタンでは今日も人が死んだ。いつか見た展示会で香月泰男はかく語りき、『黒い屍体ではなく赤い屍体から我々は戦争を語るべきである』。自分の不幸より、世界の不幸の方がより身近に感じるのは何故だろう。鬱病の友人が自分を元気付けるためにガーデニングを始めたという。幸せになるために、人は努力を必要とされる。わたしも彼に倣って、自分のための薔薇を一輪買った。

f:id:yumemimic:20211010224351j:image